平成29年7月九州北部豪雨(2017年)
2017年(平成29年)7月5日から6日にかけて、福岡県と大分県を中心に九州北部地方で所によって総雨量が600mm近い記録的な大雨が降り、土石流や山崩れ、洪水による甚大な災害が発生した。気象庁はこの豪雨について「平成29年7月九州北部豪雨」と命名した。
対馬海峡付近に停滞する梅雨前線に向かって暖かく非常に湿った空気が流れ込んだ影響で、九州北部地方では筑後川沿いに発達した積乱雲が連なる線状降水帯が形成・維持され、同じような場所で豪雨が続いた。福岡県には記録的短時間大雨情報が15回にわたって発表され、特に朝倉市では1時間に129.5mm、2日間では586.0mmの記録的な降水量を観測した。
この豪雨で、福岡県朝倉市と隣接する東峰村、さらに大分県日田市を中心に各地で筑後川に注ぐ中小河川が氾濫、また上流では土石流や山崩れが相次ぎ、大量の土砂や流木が下流に押し寄せ、多くの家屋が損壊もしくは流失した。この豪雨によって、福岡県と大分県で41人が死亡または行方不明となり、浸水・損壊家屋は2,000棟以上にのぼった。
この災害の記録写真
専門家からのアドバイス
この災害で学ぶべき教訓は何か、専門家が解説します。
大量の水、土砂、流木が甚大な被害を引き起こす
短時間で記録的な大雨となった一部の山間地域で、多くの土砂崩れが発生しました。朝倉市周辺の山々も崩れ、下流に位置する赤谷川下流部は大量の土砂で埋め尽くされました。被害を大きくした原因の一つに「流木の集積」が挙げられます。
橋梁部に蓄積した流木が流路を塞いだため、土砂を含む川の水は本来の流れから外れ、住宅地へ浸入。家屋や道路・田畑を飲み込み、辺りは一つの大きな川と化しました。「大量の水」「土砂」「流木」の3つが重なると、甚大な被害を引き起こす可能性があります。
浸水した地域には流木や土砂が広がったため、復旧作業が難航しました。川幅が拡大した赤谷川下流部は、広がったままで急いで復旧されました。
被害拡大に対する防御策として期待できるのがダムです。大量の土砂や流木を完全に食い止め、下流へ流れるのを防ぎます。氾濫を抑制し、被害を最小限に抑えることが可能となります。
個人の防災意識を高めることも重要です。自分が住む地域の特色を理解し、起こりうる状況を想定しておきましょう。避難場所はもちろん、自宅からの経路を確認しておくのもおすすめです。災害時に焦らないで済むように、行動パターンを決めておくと安心です。
近くの川に異変がなくても、地盤の高い所にある川から突然水が溢れ、流れてくる可能性も十分あります。早めに避難するのが一番ですが、もし間に合わなかった場合は上階へ身を移すこと。そして慌てず、周囲の状況を把握することが大切です。
- 小松 利光
- 九州大学 名誉教授(河川工学) 日本工学会副会長 土木学会特別上級技術者(流域・都市)
- 河川工学・環境水理学を専門とし、各地で起こる水害の調査・研究を行う。「平成24年7月九州北部豪雨」「平成29年7月九州北部豪雨」では、基礎調査と各災害の発生機構の解明を目的に組織された土木学会調査団団長ならびに顧問として、現地調査に注力した。
参考資料
- 気象庁「平成29年7月九州北部豪雨について」
- 内閣府「6月30日からの梅雨前線に伴う大雨及び平成29年台風第3号による被害状況等について」