平成23年台風12号・紀伊半島豪雨

奈良県野迫川村北俣川右支川:山腹斜面から崩壊した土砂がアジコ谷に流入し、河道を閉塞している。崩壊土砂の一部は集落へ到達し、北俣川本川の河道を閉塞している。(2011年9月7日9時撮影) 提供:アジア航測(株)

 2011年(平成23年)9月3日10時頃、大型の台風12号が高知県東部に上陸し、丸一日かけて四国地方と中国地方を北上して日本海へ抜けた。暴風域はなかったが、強風域が直径1,000km以上と大型の台風であったことと台風の動きが遅かったことから、台風周辺では長時間にわたって大雨となった。

 特に台風に向かって湿った空気が流れ込み続けた紀伊半島では、降り始めからの1週間の総雨量が2,000mm近い記録的な大雨となった。これは、もともと雨の多いこの地域にあっても、年間降水量の半分を超えるような多さであった。和歌山県を中心に全国で死者・行方不明者98人、損壊・浸水家屋26,000棟以上という甚大な被害となった。

 また、和歌山県や奈良県の紀伊半島の山間部では大規模な土砂崩れが多く発生し、堆積した土砂によって川が堰き止められるなどの被害もみられた。

専門家からのアドバイス

この災害で学ぶべき教訓は何か、専門家が解説します。

「九死に一生」でなく、いち早く避難して身を守る

 それまでの記録を塗り替える、2,000mmを超える大雨に見舞われたことにより、長い雨が洪水を、強い雨が土砂災害を引き起こしました。紀伊半島はもともと雨が多く、被災の経験がありながらも、大きな被害となったのはなぜなのか。その要因としてまず挙げられるのが、過去の経験を上回る雨量であったこと。そして「これまでも大丈夫だった」と、思っていた人が多かったことが考えられます。

 件の災害でいち早く避難し、難を逃れた被災者のインタビューが印象的です。その方は「避難の決断したきっかけは何か?」という質問に対して、「きっかけはない」と答えています。「今までも雨が降れば逃げていた。それが今回、当たったんです」と。研究して知識を持つことで、災害を回避できると考えていた私は、このインタビューに大きく考えさせられました。災害に対する知識を付けることは決して悪いことではありません。ですが、深く知ったからといって、ギリギリで難を逃れようとしてはいけないのです。警報が鳴った、アナウンスがあったら、すぐに逃げることが重要です。

 テレビで、災害における「九死に一生」を扱った番組がありますね。そんな奇跡が自分にも起こるとは思わないでいただきたいです。そして「これまで大丈夫だったから」という考えは非常に危険。災害をぎりぎりで避けようとするのではなく、いち早く逃げることが大切です。そのためにも、水や食料、洋服、ラジオなど簡単なものを詰めるだけでいいので、持って歩けるような防災袋を、ふだんから用意しておくことをおすすめします。

新井場 公徳(消防庁 消防大学校 消防研究センター 技術研究部 地震等災害研究室長 博士(理学))
新井場 公徳
消防庁 消防大学校 消防研究センター 技術研究部 地震等災害研究室長 博士(理学)
総務省消防庁の研究機関である消防研究センターに在籍。土砂災害の研究を通して、消防・防災技術の普及活動を行っている。平成23年台風12号・紀伊半島豪雨では、消防研究センターの主任研究官として実地調査を行った。

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