福徳岡ノ場の噴火による軽石被害(2021年)
2021年8月13日、東京湾から約1,300キロ南方の小笠原諸島にある海底火山「福徳岡ノ場」で噴火が発生し、噴出した軽石が約2カ月かけて沖縄や太平洋沿岸の各地に漂流した。軽石は海面付近を漂い、漁業や観光業に深刻な被害を与えた。
産業技術総合研究所によると、気象衛星の映像から同日5時57分頃から噴火が発生したとされ、噴煙は最大で16~19キロまで上がった。明治以降に発生した日本列島における噴火の中で最大級、1914年の桜島大正噴火に次ぐ規模だという。大規模な噴火は15日まで丸3日間続いた。
軽石は10月には奄美大島、沖縄本島、鹿児島県与論島などに次々と漂着。軽石は、船のエンジンを冷却するための海水の取入口やこし器に詰まると、エンジンがオーバーヒートする。漂着した海域では船が航行できなくなり、漁業や離島の物流などに影響が生じたほか、ビーチが軽石で埋め尽くされてマリンレジャーができなくなるなどした。沖縄県によると、軽石が原因でエンジントラブルを起こした漁船は計175隻に上り、37隻が航行不能となった(2022年1月現在)。
国や自治体は、軽石の港への流入を防ぐためのオイルフェンスを設置するなどして、重機や手作業での回収作業を実施。国交省は専門家らの助言で効率的な回収方法や必要な機材をまとめ、2021年11月に公表した。火山噴火予知連絡会は、同年12月27日の定例会合で、福徳岡ノ場の噴火について「今後数十年程度、同規模の噴火の恐れは低い」との見通しを示した。(Yahoo!天気・災害)
専門家からのアドバイス
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軽石は流入を防ぐことができる 国や自治体が連携できる体制の整備を
火山活動で軽石が噴出するというのは、実はごく当たり前の現象です。火山の性質によっては噴出しにくいものもありますが、日本のほとんどの活火山は、大規模噴火の時に軽石の噴出を伴います。ですので、日本中の砂浜で目を凝らすと容易に見つかります。それだけ身近なものです。
ただ、今回の噴出の規模は特筆すべきもので、噴火直後に海面を漂う軽石の面積は、衛星による観測で最大約300平方キロメートルと推定されます。このような規模の軽石の噴出は、日本国内では約100年ぶりです。1924年に起きた西表島の北北東にある海底火山での噴火でも大量の軽石の噴出が起き、約3カ月周辺の島の港が使えなくなったという記録が残っています。この時の軽石は、海流に乗って1年くらいかけて北海道に流れついたそうです。
我々の調査では、漂着した軽石の大きさは直径4~5cm程度で、海面付近に10~20cmくらいの厚さで堆積していました。石どうしがこすれて割れて小さくなれば、いずれは沈んでいくと思いますが、どのくらいの時間がかかるかはわかりません。回収した軽石を捨てる場所をどう確保するかといった課題もある中で、優先順位をつけて回収作業を行う必要があります。捨て場の確保も今後の課題になると思います。
大量の軽石を飛ばすような大規模な噴火は今後も起こる可能性があります。しかし、漂流する軽石の接近は、衛星や飛行機による観測で事前に察知することが可能です。オイルフェンスなどで防御し、港に入らないようにすることもできます。省庁や自治体が連携して、軽石を監視して警戒を呼びかけるような体制を整備する必要があると考えます。
- 及川 輝樹
- 国立研究法人産業技術総合研究所 主任研究員 博士(理学)
- 産総研で火山地域の地質図作成に従事するとともに、過去や現在の噴火の復元を基に火山を理解する研究を行っている。最近は様々な火山防災関係の委員等を務め、研究成果を社会に還元している。近著「日本の火山に登る」(ヤマケイ新書)。
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- 産総研地質調査総合センター